青森を旅して草間彌生や奈良美智と満天の星空に出会う

フィールドワーク設計ゼミ担当教員の小川敦生です。本ゼミでは、11月20〜22日、学外研修を青森県で実施しました。

 

◎1日目

十和田市現代美術館より 草間彌生《愛はとこしえ十和田でうたう》の彫刻群

最初の目的地は十和田市現代美術館。西沢立衛氏の設計で知られる立方体や直方体の建物がいくつも連なって立つ異色の美術館です。ゼミ生たちがまず夢中になったのが、屋外に草間彌生の彫刻が立ち並んだ公園でした。彫刻群全体に、《愛はとこしえ十和田でうたう》という作品名がつけられています。草間の作品は建物の中で見るのが普通なので、屋外でこれほどたくさん立っているところに接するのは貴重な体験。彫刻と握手するなど、ゼミ生たちはなかなか新鮮な楽しみ方をしていました。

 

十和田市現代美術館より
ロン・ミュエク《スタンディング・ウーマン》展示風景

十和田市現代美術館より
レアンドロ・エルリッヒ《建物―ブエノスアイレス》に興じるゼミ生たち

やはり屋外に立つ花の馬の彫刻(チェ・ジョンファの《フラワー・ホース》)を堪能した後、美術館の建物に入り、ロン・ミュエクの巨大な女性の彫刻《スタンディング・ウーマン》に接して、その錯誤感にゼミ生たちは大喜び。参加型のレアンドロ・エルリッヒ《建物―ブエノスアイレス》では、ゼミ生たちがまるでビルの壁面につかまっているかのような経験をすることができ、さまざまなアートのありようを楽しみました。ここの美術館はほかにも体験型の作品が多く、満足感の高い鑑賞ができた模様です。

 

◎2日目

弘前れんが倉庫美術館外観

弘前れんが倉庫美術館へ。元はシードル工場・倉庫だった建物を近年改修した、なかなかシックな佇まいの美術館です。ここでは、企画展「タグチアートコレクション×弘前れんが倉庫美術館 どうやってこの世界に生まれてきたの?」を鑑賞しました。タグチアートコレクションは、実業家の田口弘さんの現代美術コレクションを地方で見せる試みに熱心で、この展覧会では同美術館の所蔵品と合わせて片山真理、マウリツィオ・カテラン、加藤泉、金氏徹平、千葉正也、塩田千春、ピピロッティ・リストなど多くの現代美術作品を鑑賞することができました。

 

弘前れんが倉庫美術館より 奈良美智が高校生時代に運営に参加したというロック喫茶「JAIL HOUSE 33 1/3」の再現展示

その中に、弘前市出身の現代美術家、奈良美智が高校生のときに運営を手伝っていたというロックカフェの再現展示があったのが、印象的でした。奈良には部屋自体を展示物としてしつらえた作品が結構多いのですが、ひょっとしたらここに原点があるのかもしれません。後で青森県立美術館の学芸員の方に聞いた話では、この再現展示は、もともと青森県立美術館の展覧会のために制作されたものとのことで、その後弘前れんが倉庫美術館に寄贈されたそうです。

 

 

弘前市のロマントピア天文台「銀河」は、満点の星空の下にあった

 

ロマントピア天文台「銀河」には口径40cmのハイテク反射望遠鏡があり、この日は木星、土星、白鳥座の二重星などを観察させてもらえた

夜は、宿泊したホテルの近くの天文台へ。昼間は曇りがちだったのに、夜は満天の星空。なんと日ごろの行いがいいことかと思わせます。どうもゼミ生の中に二人、超晴れ女がいたとのこと。ありがたい話です。ここでは、木星と土星、白鳥座の二重星を高性能の望遠鏡で見せてもらえました。木星で見えたのは島模様と3つの衛星、土星では例の輪っかが見えたのですが、比較的クリアに観察できるモードに調整して見せてもらえたので、まるで星のアイコンのようなかわいらしい姿をしていたのが印象的でした。星空をこうして眺める機会は、東京にいるとめったにありません。ゼミ生たちは目一杯楽しんでいました。寒かったですけどね。

 

◎3日目

五所川原市の太宰治記念館「斜陽館」より

午前中、五所川原市の太宰治記念館「斜陽館」へ。なかなかすごい名前の館ですね。実はこの日は朝食時に雨が降っていて、「あー」と思っていたのですが、太宰治記念館に出かける頃にはすっかり晴れていました。やはりわがゼミ生たちは、日ごろの行いがいいようです。1907年に建ち、旅館を経て記念館になったという現在の「斜陽館」では、太宰の生家の隅々までを見ることができました。館の方の解説では、太宰の実家は当時の新興の地主であり、相当なお金持ちだったそうです。使われた木材だけでも現在の価値に換算して億円単位なのだとか。そして、旅館だった時代には、演歌歌手の吉幾三が結婚式を挙げたのだとか。館の方はゼミ生たちに「皆さんはご存知ないと思いますが…」との言葉に、「知ってる」という意外なうなずき。今の学生でも吉幾三を知ってるんですね。しかし太宰は、そのお金持ちの空気におそらく大きな違和感を抱いて、「斜陽」や「人間失格」などの文学作品を生み出したのだろうと想像されました。1室に、河鍋暁斎の弟子、真野暁亭という画家が描いたという襖絵があり、興味を惹かれました。これがまたなかなかいい作品だったのです。

 

三内丸山遺跡で竪穴式住居の中に入るゼミ生たち

午後は三内丸山遺跡へ。ここでもまた好天に恵まれました。実はその後、雨になったので、本当に日ごろの行いがいいのだなと、一同、改めて実感。縄文時代の竪穴式住居などを堪能しました。

 

青森県立美術館より
シャガールが米国亡命時代に制作したバレエ「アレコ」の舞台背景画の展示風景

その後、徒歩5分の青森県立美術館へ。ここではシャガールが第二次世界大戦中、ヨーロッパからアメリカに亡命していた時代に描いたバレエ《アレコ》の背景画4枚揃いを見ることができました。大きな展示室の4つの壁に1枚ずつが掛けられており、圧巻の一言に尽きます。3枚は青森県立美術館の所蔵品なのですが、実は1枚はフィラデルフィア美術館からの借用品。来年度、借用先に戻すことになっており、4枚揃っているところを見られるのは実に貴重な機会なのです。しかし、せっかくだから、フィラデルフィア美術館から永久貸与などさせてもらえるといいのではないかなどとも思いました。果たしてどうなるのでしょう。

 

青森県立美術館より 奈良美智 《あおもり犬》展示風景

そして、この美術館のシンボルとも言える奈良美智さんの大型彫刻《あおもり犬》をじっくり鑑賞。先日降った雪のため規制がかかって、彫刻の真下に行くことはできませんでしたが、やはり大きさは、インパクトを生みますね。世界の「板画家」として知られる棟方志功やウルトラマンシリーズのキャラクターをデザインした成田亨の作品などもあり、なかなか充実した時間を過ごすことができました。